東野圭吾「美しき凶器」
前回に引き続き、東野圭吾の作品のレビューです。
あらすじ
※ネタバレなしです。
安生拓馬、丹羽潤也、日浦有介、佐倉翔子。かつて世界的に活躍したスポーツ選手だった彼らには、葬り去らなければならない過去があった。四人は唯一彼らの過去を知る仙堂之則を殺害し、いっさいのデータを消去。すべてはうまく運んだかに思われたが…。毒グモのように忍び寄る影が次々と彼らを襲った!迫りくる恐怖、衝撃の真相!俊英が贈る傑作サスペンス。
感想
ドーピングについて考える。
ちょうど今年はオリンピックイヤーということもあって、普段スポーツに興味がない人も気になるアスリートができたのでは?と思います。
開催前にはロシアのドーピング問題が話題になったように、ドーピングは本当のところどうなんだろう?今年は本当にないんだろうか?と思ってしまいます。
ドーピングはもちろん支持できないです。
国の代表として活躍してみたい。表彰台にのぼりたい。アスリートの夢があって、夢に近づける可能性があるなら、ドーピングしたくなる、させたくなるかも?そういう誘惑があっても不思議はないのかもしれません。
ドーピングを後悔するときってどんなときなのか。記録に対しての後ろめたさ?それよりも切実なのは、ドーピングの後遺症なんじゃないか?
栄光と後遺症と、その狭間で苦しむ人。引退後、後遺症もなくて明るい人生の続きを送っている人。同じようにドーピングしていても、大会の後、人生は色々であっても不思議はないのかなと思いました。この作品を読んで、そんな気がしてきました。
私は痛み止めを服用するけど。
全然次元の違う話ですが、私は頭痛持ちでよく頭が痛くなります。
近年では、楽しいイベントの時や、家族で集まるとか、機嫌よく過ごしたいときには、頭痛の前兆が出ると痛みがひどくなる前に薬を飲みます。それで不機嫌にならずに済むので。
気持ちよく過ごしたいから。みんなに優しくしたいから。私はそんな理由だけど、薬物を使う理由はこの頭痛薬の心理に似ているような気がします。落ち着いて試合したいから。つらいトレーニングにも耐えたいから。コーチの期待に応えたいから。
結末は切なかった。
アスリートの肉体は強靭だと思いました(^-^; どれも離れ業すぎて、私には想像できない世界だけど、動機はシンプル。目的もシンプルです。
今の華やかな暮らしを守るために、保身ばかり考える大人たち。
VS
薬の副作用による流産とトレーニングを繰り返しても、心まで筋肉になるわけでも、感情のないロボットになるわけでもなくて、純粋な乙女心を持っている女性。
密室でトレーニングばかりして、レオタードしか着たことがなくて、字もよく読めなくて、そのことに疑問も持たないのに、好きな人の赤ちゃんを生みたかったのだということがとても切ないラストでした。
東野圭吾は、こういう女心をさりげなく描けることがすごいなと思います。タフで繊細な作品だと思いました。